旅の空色


ホテル 中の島


 和歌山県那智勝浦町の勝浦湾湾口にある孤島の宿。
孤島のため、宿へは宿専用の連絡船で行くことになる。
基本リーズナブルなプランの多い宿であるが、
我が家では恒例の最高級のプランを試した。

宿ホームページ→(外部リンク)http://www.hotel-nakanoshima.jp/

[筆者評]
 本夏の家族旅行『熊野三社詣』の二日目の宿として利用。
4棟ある客室棟の内、最上格の「潮聞亭」の一番良い部屋「特別室」を利用。
1泊2食大人ひとり3万8千円。
 ※「潮聞亭」の特別室は、2F、3F、4Fの各階の一番奥に合計3部屋あり、
   今回私達は3Fの特別室を使った。4Fの特別室は露天風呂も付いていて、
   そこがこの宿の最高級の部屋と言えそうだが、湯は普通の沸かし湯だそうで
   (つまり温泉ではない)、その意味でも露天風呂の必要性を感じなかった。

最上格の客室棟「潮聞亭」は孤島では一番外海に近い場所にあり、
対岸は緑豊かな半島岸、目の前は時折漁船の通る湾口路といった具合で、
棟の名の通り、潮騒の音のみが聞こえる静かな客棟である。

特別室は、10畳の和室を主室として、湾口路を望む4畳の広縁、
ソファーセットとツインベットがある12畳ほどの洋室を縦横に配し、
それらの外側を広いベランダがぐるりと取り囲む形となっている。
玄関も2畳はあって、玄関上がりも同様に広く、玄関横の化粧室、
内風呂とゆとりの造りで、テレビも和室と寝室に2台あり、
特別室の名に恥じぬ、満足の行く間取りであった。
(前の日の宿が不満一杯だっただけに、息子と嫁においては
しみじみとちゃんとした部屋の良さが冴えたようだ)。

夕食は部屋食で、給仕は5回ほどであったろうか。
地物の大鯵や伊勢エビ乗せた舟盛りに、
アワビの躍り食い、牛肉の陶板焼き、煮物、焼き物、茶碗蒸し、釜飯と
質量ともに満足のゆくご馳走であった。
息子は魚にアレルギーがあるため、その旨を前もって断っておいたら、
大判のステーキにたっぷり牛肉のしゃぶしゃぶと、
息子においても大満足の内容であった。
但し、朝食は量はともかく、質はいまいちだった感がある。
朝もゆったりと過ごしたいと、部屋食を選んだのだが、
バイキング会場で食べた方が正解だったかもしれない。

(私はこの朝食でがっかりすることの多い事象を
「宿の朝食問題」と名付けている。
その原因はおそらく朝は主要な料理人がいないためと
推測している。主力の夕食に精力を注ぐため、
朝食までは付き合え切れない現実があるのだろう。
ただ逆に朝食まで丁寧な宿はたいしたものと言えるだろう。
またバイキング以外の方法で料理人がいないながらも
上手く対応しているところもある。)

宿の温泉は別格の評価”大”と
温泉好きの私が太鼓判を押せると言っていい。
広い内風呂はガラス越しに対岸の景色を望み気持ちいいし、
内階段を2階分ほど下りると出る海を望む広い露天風呂は、
海の景色と解け合って、これまた格別の風情と言える。
それらシチュエーションに加えて、また湯も上品である。
白濁湯に、香る硫黄臭。潮風にやさしく吹かれながら、
硫黄泉に体を浸ければ、爽やかな空気と湯の効用と、
ダブルで心と体が洗われて、極楽この上ない気分となる。
正に熊野詣に相応しいお清めであろう。
露天風呂の山側はちょっとした洞窟風呂になっていて、
その奥から源泉が流れ出ているそうで、
奥に行くほど湯が熱く、そんな温度差も楽しめる。

館内の遊びで人気なのがプール(夏季限定)と
孤島ゆえの魚釣りと言えるだろう。
プールは4レーン幅の長方形の25メートルものと
子供用プールで、これといって特徴はないが、
朝から子供達で賑わっている。
魚釣りは老若男女を問わず人気だ。
ホテル玄関の船着き場や客室棟の一階部の外縁だの、
海に面したところに場所を見つけては多くのお客が
釣り糸を垂れている。
竿とエサは宿で用意してくれる(有料)が、
本気で釣りたいなら自前で用意した方が良い。
宿の短い竿と冷凍のオキアミでは獲物は望めない。

宿の棟棟は孤島の岩をも一部くり貫いて通路を作り、
ドーナツ状に繋がっていて、ぐるりと一周できるようになっている。
また島の半分はちょっとした冒険遊歩道になっていて、
ゴールの南端からは名勝・紀の松島や外洋を望むことができる。
(但し、島の森にはあまり手を入れていないようなので、
暑い時期には蜂などの昆虫類の活動が活発で注意を要する!)

(良い印象)
◇船で行く孤島の宿という他にはない趣きがある。
◇夕食の宴は質・量ともに満足である。
◇お風呂、特に露天風呂の雰囲気が良く、湯質も良い。
(悪い印象)
◆朝食がやや見劣りした。私の言う「宿の朝食問題」。
◆酒の種類が少ない。特に日本酒。
 
息子においては、
腹一杯食べて、プールで遊んで、磯釣りもして、
露天風呂の湯加減もちょうど良くて(あまり熱い湯だと耐えられない)
大満足の宿であったが、
帰り際、連絡船から見た近くの巨大ホテル「ホテル浦島」を見て、
「あっちの方がよかったかな」などとぬかしていた。
「ホテル浦島」ももちろん考えないでもなかったが、
今回は孤島での静かな大人の雰囲気を重視したのだった。

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連絡船から見た「ホテル 中の島」本館の景色。
本館は勝浦漁港に向き合う形で、孤島の北に位置し、
客室棟「潮聞亭」は本館裏の山を挟んだ裏手に背を向ける形で建つ。



連絡船から見た「ホテル 浦島」の全景。勝浦湾を囲む様に伸びた半島部にある。
半島部の付け根の通行が不便なため、こちらも専用の連絡船で渡るように
なっていて、浦島の名らしく、亀を模した連絡船は有名である。
山頂にある建物も「ホテル 浦島」の一部で、昇降で使っているエスカレーターは
3基連なって、高低差日本一とかで、それもこのホテルの名物となっている。

「ホテル 浦島」はその巨大さゆえに施設が充実しているといえる。
室内プールと室外プール、有名な大洞窟風呂、カラオケボックスに
飲食店数軒と、老若男女、カップルや家族、フルムーンと
様々なお客のニーズに応えられるマルチな宿と言っていいだろう。
特に遊び盛りの子供を持つ家族にとっては、子供達が走り回るのに
十二分な大きさとアミューズメントを誇ると言えると思う。
また近年では素泊まりで予約し、館内の飲食店で好きなものを注文する
スタイルが人気など、施設の充実ぶりも物語ってもいる。

今回の旅行では大人の雰囲気を重視して、
また孤島という他にはないシチュエーションにも惹かれて
「ホテル 中の島」を選んだのだが、
熊野三社詣の祈願成就の暁には、
お礼参りの旅で、今度は「ホテル 浦島」に泊まることになるだろう。