旅の空色
月岡温泉 華鳳 つきおかおんせん かほう
新潟県では一番有名な温泉地、月岡温泉にある大型旅館。
高級路線からリーズナブルなものまで、多彩なプランがある。
宿ホームページ→(外部リンク)http://www.kahou.com/
[筆者評]
私は今まで様々なタイプの宿に泊まってきたが、
もっとも思い出多き宿となった。
健康体な母と過ごした最後の宿であり、
初めて旅館の大女将の挨拶を受けた宿であり、
今までで一番贅沢をした宿であった。
夏の家族旅行で利用。
大人5人子供2人、離れ風の貴賓室に宿泊。
大人一泊二食付き4万2千円。
戸建て離れ風のその部屋には、
15畳の本間を中心に、12畳ほどの応接洋室、
少し離れて8畳の和室の別室がある。
大きなトイレに大きな洗面台コーナー、
大きな浴槽の内風呂と、
その外に大きな円形の大理石露天風呂、
そしてこの部屋専用の15坪ほどの庭がある。
公式では105uの広さとのことだが、
広い畳敷きの廊下や畳敷きの縁側、
さらにその外を濡れ縁が囲み、
そのうしろに控える専用庭と、重層な造りを勘定に入れたら、
100uどころの大きさではない。
私たちが今まで泊まった宿の中で一番大きな部屋であった。
そしてこの大きな旅館で私たちはその日一番のお客でもあった。
食事は旅館の料亭であったが、そのもてなしに度肝を抜かれた。
10メートルはある一本板の上がりの玄関に、
廊下は総畳敷き、6人ほどの仲居に招かれるまま進み、
自分の脱いだ履き物を振り返る必要もなかった。
玄関左手に大庭園の池に突き出た大きな間が見えて、
まさかあの間かと思っていたところ、正にその間に通された。
奥にも多くの大きな間があると思われるが、
池の上から庭が一望できるその間こそが
この料亭一番の間であることがうかがえた。
その間専用に大きなトイレも付いていた。
先付けと一緒に出された桶に入ったズワイガニとの格闘に始まり、
高級魚・スズキをメインにした大舟盛り、
そして懐石料理の数々、
家訓として出されたものは残すことを良しとしない我が家は、
なんとかお腹にご馳走を納めた。パンパンであった。
宴もたけなわの頃、今までと違う仲居が入ってきた。
地味な色柄だが、今まで接客してくれた仲居とは明らかに違う。
仲居でもひとつ上の仲居頭かと思われるその女性が
「ようこそいらっしゃいました」と深く頭を下げて挨拶をしてくれた時、
前もって頼んであったバースディーケーキが届いた。
我が家7人中、5人が8月生まれで、
毎度夏の旅行ではお祝いのケーキを頼んでいるのだ。
その事情を聞いたその仲居頭は「私にもお祝いさせてください」と
別の仲居に頼んで、佐渡の地酒を1本サービスしてくれた。
控えめで、しかし気っ風の良い仲居であった。
後で知ったことだが、その女性こそこの大きな旅館の大女将だったのだ。
宿で一番のお客だったのは今回が初めてではない。
しかし今まで一度も挨拶を受けたことはなかった。
帰り際、子供達にそっとおもちゃをくれたりして、
改めて大女将と知って驚き、また感服した。
このエピソードについては平成19年9月のコラムにも書いています。
ご参照ください(コラムは後日掲載予定)。
そんな巨大旅館だから施設も充実したものである。
300坪の巨大ホールに結婚式場、
室内温水プールに充実したゲームセンターと卓球台コーナー、
クラブにカラオケルーム、そして6000坪の大庭園。
立派過ぎて、大きすぎて、正に目が回るといった感じ。
とりわけ驚かされたのが、宴会場用のトイレだった。
入り口で履き物を脱いで上がったら、
コの字型に板の廊下が10mほどあり、
そこでまたスリッパを履いて大きなトイレスペースへ入るといった趣向。
なんでこんなに仰々しいのかさっぱりわからない。
急いでいる時にはややっこしいが、
この巨大旅館の奥深さの一端でもある。
プールは3本のコースを持つ長方形のプールと
子供用プールがある。
基本有料のためか、利用者は少なく
ほぼ貸し切り状態で気持ちいい。
(大人500円、子供200円)
大きな旅館なので大浴場の湯船も広い。
脱衣所も湯上がり処もゆとりある造りで
ゆったりと過ごすことができる。
早朝に露天風呂に入れば
遠く山の峰から昇る朝日を拝むこともできる。
今回私たちは1階の貴賓室を使ったが、
本館の高層棟には床まで大きく広げたガラス窓を持つ、
眺望のよい様々なタイプの部屋が用意されている。
また私たちの時はちょうど建設中であったが、
同じ敷地内に「別邸 越の里」という
20室すべてスイートルームという
旅館とホテルを掛け合わせたような、
プライベートな空間を優先する新サービスもある。
まあ兎にも角にも、そして大女将も
懐の深い旅館である。
(良い印象)
◇スケールが大きい。
◇接客も一流。
◇料理、サービス、設備に隙がなく、行き届いている。
◇最高の部屋、最高の料理とサービスで最高の思い出になった。
(悪い印象)
◆ない。旅館としては本道を行く正統派。
◆あえて上げるとすれば、東京から月岡温泉はちと遠い。
息子はプールで遊べて大喜び。
私と妹と甥っ子のたっくん(妹の子。息子には従兄弟)の
3人でみんなの応援のもと水泳で競争し、いい思い出になった。
今回は大予算なので、出費を少しでも抑えるために
子供達は布団の貸し出しのみの料金にしてもらった。
実際、ふたりともに小食で、
(旅行が嬉しいことと、お互い気の合う遊び相手がいて
興奮しっぱなしで、毎度食事にはあまり手を付けない)
食事は大人のものを分け与えれば十分足りるからだ。
またバースデーケーキも子供達の食事を補完する意味もあった。
それなのにお土産におもちゃまで頂いて‥
恐縮の限りだ。
ひとつ戻る
宿泊者7人。右より妹、たっくん、母、息子・錬、父、筆者、嫁。
夕食時、料亭の間において。ひとり分のズワイガニでかい。
サービスショット。部屋付き露天風呂にて。
男同士でホットタブパーティー。

初日は新潟県の藤塚浜海水浴場で遊んだ。
遠浅で波の高さも調度良く、砂もきれいな浜であった。
左の写真は海の家のテラスの息子・錬。
右は海の家の中。母は海が大好きだが、日焼けは嫌い。
旅館のプールは入り口で部屋の番号を言って後で精算する形なのだが、
老齢の従業員に「お部屋の番号は何番ですか?」と尋ねられたところ
「緑水(りょくすい)です」と答えたら、
「すごいですねえ。貴賓室ですかあ」と言われたので、
「息子が連れてきてくれたんです」と答えたと
母が嬉しそうに話していた。
私はちょっとは親孝行ができているのかと少し胸が熱くなった。
貴賓室の専用庭にて。母。
翌年の5月、脳梗塞を発症し、半身不随の後遺症が残り
1本杖の生活となる。
この年、旅費の積み立てに余裕があったので
思い切ってこのような贅沢を試みた。
一泊の出費としては大きかったけれども、
今となってみれば本当にいい旅行だったと思う。