旅の空色


2015年 5月号


街のお酒屋さん救済?ことの真意は?

 私は基本ノンポリ(=政治に無関心)で通している。
まあ確かに今の政治に言いたいことは人並みにあるが、多様なお客様相手の商売人は
中立的な立場でなければならないことを信条にしている。
ただ昨今話題になっている、お酒の行き過ぎた安売りに規制をかけるだとか、
街のお酒屋さんを救済するなるニュースには違和感を感じる。というか憤慨さえ感じる。
私の家も街の小さなお酒屋さんで、こんなことを語ると読者諸君は
ちんぷんかんぷんなことに聞こえるだろう。救いの手が差し伸べられようとしている、
また有利な話なのに何とへそ曲がりなことかと思われるかもしれない。
これから話す私の主張は、本来ならテレビの討論番組ででも声を大にして語りたいところ
であるが、所詮街の小さなお酒屋さんであり、無名の文筆家であるので、
この小さな紙面で小声で、でも筆圧は普段より強くして語りたい。

 そもそも街のお酒屋さんは誰も助けてくれとは言っていない。
というか、もうそんな声すら上げる元気はないというのが実情である。
今から20年くらい前、1995年頃は、いわゆる一般の街のお酒屋さんは
全国に8万軒くらいは存在した。その頃は組合の組織力もあり、酒の安売りに対する
反対運動も確かにあった。2015年現在、お酒の取扱店は5万軒くらいあると言われるが、
スーパーやコンビニを差し引いたら、街のお酒屋さんは1万数千軒程度だろう。
ここ越谷でも最盛期は300軒は数えた街のお酒屋さんが、現在は70軒程度で、
しかも今後減り続ける見込みしかない。ビール、焼酎、日本酒、ワインなど酒全体の
小売りの売り上げも今は半数はスーパーが占めているのが実情であろう。
一般の街のお酒屋さんのシェア−は、特に家庭向けは1割にも満たないと思われる。
ところで一時勢いのあった酒の安売り専門店はほとんど姿を消したのはお気付きだろうか?
結局の所、彼らも食品スーパーに負けたのである。もし今残っているところがあるとしても、
一般の方も入れる業務用スーパーといった看板で、食品にも力を入れているお店であろう。
もはや酒の安売りだけでは生き残れないのである。
 街のお酒屋さんは地元の名士も多く、1軒あたり200票くらいの選挙組織票を持つ
というのも大袈裟である。私が知っている範囲では、政治においては私のように中立的な
立場をとる人が多く、選挙に積極的な人を見たことはない。ただお酒の小売りの組合が
最盛期だったころ、組合として組織票に参加していた過去はある。まあ、私個人は
あくまでもノンポリを通していたが、地元の組合役員をしていた私の親父などは、
組織内では票集めをしていた。また地方、特に田舎のお酒屋さんでは、人の繋がりの
強い土地の事情もあり、選挙に積極的だったお店もあると思われる。ただ田舎では
急進的な政党は敬遠されがちであり、周りの目もあるので、常識の範囲内での
運動であろうと、メーカーのセールスとして田舎のお酒屋さん回りもしたこともある
筆者は見ている。

 実は酒の安売りに関しては一度、流通(酒卸店)を中心に是正する動きがあった。
このままでは流通の経営が立ち行かないとの理由で、10年くらい前だろうか、
取扱量の大中小によって卸価格を一律にする試みがあった。しかし結局その試みは失敗した。
流通の一方的な事情などスーパーやコンビニには関係なかったのである。
業界の秩序の回復になると、その試みに賛同した多くの一般の街のお酒屋さんは登った
ところで梯子を外された形になった。ちなみに1992年当時、私がメーカーのセールス
として働いていた頃、宮城県の酒卸店は30軒以上あったが、今は10軒あるかないかの
状況だろう。酒の卸店は小売店以上のスピードで淘汰され、個人経営の店はほとんど
無くなっている。
 街のお酒屋さんは免許制度で、許可制で守られているというのも嘘である。
もはや事実上、免許制度など存在しない。昔はお酒屋さんになるには、お酒屋さんで
奉公して、支店を出す形で開業、そして自立するのが王道であった。
今、お酒を扱いたかったらコンビニエンスのフランチャイズになるのが早道である。
昔はお酒を扱う条件が厳しかったが、今お酒を置いてないコンビニは見たことがない。
 お酒は酒税法があり、安売り販売はその徴税に影響が出るというのも嘘である。
酒税はメーカーに対して課されていて、大きかろうが小さかろうが小売店が潰れても
取りっぱぐれはない。だいたい小売店の酒税を管轄する税務署職員は居ないに等しい。
 以上、自虐っぽい話をつらつらと述べたが、街のお酒屋さんの現状に同情を買いたい
訳ではもちろんない。全く頼みもしないのに、業界の事情も知らない輩がわさわさと
湧きだし、いかにも弱い者を助けるといった欺瞞と自己完結に腹立たしいのである。
しかも世間では弱者救済と現れたこの話は、議論の場に出るや否や、保護政策だの、
競争阻害だのと、今度は怒りの矛先が提案者を通り越して頼んでもいない街のお酒屋さんに
向けられるのである。正に踏んだり蹴ったりの状態である。ある意味全く関係ない
私たち街のお酒屋さんを余所に、この話の真意はどこにあるのだろうか?
 これはあくまで憶測だが、この話の、お酒安売りを見直そうという話の出所は、
第一にビールメーカーにあるのではないかと思われる。日本国内におけるビール市場は
頭打ちで、今後ほとんど伸びる見込みはない。にもかかわらず、大手スーパーを始め、
コンビニなども様々な形で、販売促進としてお金をたかってくる。お金を出しても
大して販売は伸びないのに、悪しき慣習のみが残っている現状を変えたいと思うのは
当然の成り行きであろう。また第二に、大手スーパーを始め、コンビニなどもお酒の
利益改善をしたいという思惑があると思われる。他の取り扱い品目と比べて、お酒は余りにも
利益が薄い(酒だけじゃ商売にならない)からである。そして第三は政治家のたかりである。
落ちぶれたとはいえ、街のお酒屋さんの組合は存続している。その組合に対して
政治献金をたかろうという口実である。ただ酒の小売り組合は、一度政治家の口添えで
架空のファンドに投資して、積み立てていた年金140億円ほどを騙し盗られている。
もし組合の役員が昔のように政治献金の話をしに来たら、「それこそ泥棒に追い銭ですよ」
ときっぱり断る覚悟の筆者である。

街のお酒屋さんは言うなれば絶滅危惧種である。そっと見守ってほしいものだ。


■ 執筆後記 ■

 私はこの話が持ち上がった時、
最初にひどい侮辱を感じた。
そして同時に、この話の出所に対して
はげしい怒りも感じた。
すでに物言う気力もない業界(=お酒の小売組合)に対して、
またでくのぼうの様な体の相手に対して、
そんなお前だからこそ人柱になれ
と言わんばかりの非情な扱いに
憤りを感じたのである。
しかもこの出所にはとてもたくさんの国会議員が
絡んでいるという。
正にこの国の政治レベルの低さ、
志の低さ、そして無責任さを
露呈していると感じたのであった。

やがてこの話が野次馬好きのマスコミの取り上げられ、
代表者たる国会議員が訳の分からぬ、
ウナギを掴むような論法で語り始めたが、
そのうちに自身でも論拠の薄さに気が付いたのか、
出所の集団はいつのまにか
霧散する体となってしまた。
そんな一連の動きに、
私は久しぶりに『雲助』を見た心境であった。

ところでことの真相はどこにあったのであろうか?
私はやはりビールメーカーが主犯であると思う。
こういった藪から棒の話には何かしらの
タイミングが絡んでいると考えられる。
そしてそのタイミングとは、発泡酒や雑酒の増税
(=ビールとの税率差解消)である。
酒離れで、ただでさえ酒の消費が落ち込んでいる時に、
その安さで売り上げを延ばしていた雑酒(=第三のビール)が
増税(=値上げ)となれば、ビール類の販売は
さらに打撃を受ける可能性が濃厚となる。
かといってビール業界が増税に反対しても、
ビール、発泡酒、雑酒ともに
ほとんど同じような商品に対し
税率格差を修正する動きに
もはや抵抗する術はないことに加え、
国の大借金による大増税の時代にもあって、
大きな時代のうねりにとても逆らえないのが実情なのだろう。
そもそもビールメーカーこそ、国の許認可の元で
国と持ちつ持たれつの蜜月の関係にある業界である。
そこで増税を素直に受け入れる代わりに
価格競争の自粛とそれによる利益改善を狙ったのが、
今回の騒動の発端と私は考えている。

さて、そんな悪巧みのしっぽは掴めるのだろうか?
もし掴めるとすればそれは献金であろう。
政治家がタダで動くわけがない。
しかもあの代表たる雲助は尚更といった感じだ。
「町のお酒屋さんを守る会」なる団体に
参加署名した議員面々の政治資金帳簿に
その痕跡があるのではないだろうか?
ただ雲助以外は名義貸しみたいな参加のようなので、
帳簿記載不要な程度の金額かもしれない。

もはや死に体とはいえ、今回の動きに
全国小売酒販組合中央会
(=細々と生き残っている各地の小売酒販組合の代表組織)
が絡んでないことを望む。
それこそ正に恥の上塗りという醜態となる。
ちなみに全国小売酒販組合中央会は
2012年7月13日に騙し盗られた年金140億円の負債のため、
民事再生法適用を申請し、事実上一度倒産している。

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