旅の空色


2015年 4月号


「シリーズ 誰がために金はある B」

 私の好きな金融通(金融に精通した人)のひとりに藤戸則弘(ふじとのりひろ)という
人物がいる。平日朝5時45分より始まるテレビ東京の金融専門ニュース番組
「モーニング・サテライト」にたまに出てくる論客のひとりでもある。
毎度視点を変えた興味深い資料を元に分かりやすく金融の今を解説してくれることに加え、
時には「私はAKBよりもKポップ(韓流ミュージック)が好き」などと、
堅い職業に似合わない砕けた会話に好感を持っている。その藤戸則弘氏が最近その番組で
「日本人には消費税は合わないんじゃないか」と発言して、私が日頃から思っていた
全くの同意見に感銘を受け、うれしくなってしまった。、そしてその理由も同じものだった。
あくまでも個人的な見解であるが、至極簡単に言えば消費税は日本の文化に合わないのである。
日本人は歴史的に見て質素倹約を旨とし、「清貧」を理想とする傾向が強いように思われる。
身の丈に合ったとか、草庵を結ぶとか(=俗世を離れ粗末な小屋住まいをする古典文学に
出てくる出家ライフ)、「わび」「さび」の語源である”わびしい””さびしい”にしても、
ささやなか生活の中に豊かな感性を求めてきた歴史的経緯があると思われる。
そんな民族に贅を尽くした、大消費社会を作れといってもどだい無理があるのだ。
もともと筋金入りの倹約家ばかりなのである。そんな倹約家たち相手に消費に対して
税を課せば、ますます倹約に励んで、消費がさらに抑えられ、日本経済自らの首を
絞めるようなものと考える。日本ではお金はたくさんあるところからとるべきである。

〜日本が今していること 〜

  前回のこのシリーズで、ヨーロッパを代表する賢人のひとり、ジャック・アタリという
フランス人が、歴史的に見て国の借金を返す(もしくはうまく処理する)ためには
八つの手段しかないことを紹介した。その手段とは「増税、歳出削減、経済成長、低金利、
インフレ、外貨導入、デフォルト(債務不履行=破産処理)、戦争」の八つであるが、
これらのものを眺めていると今我が国日本がやっていることがはっきりと見えてくるだろう。
ぱっと見、もっとも分かりやすいのはこのうち「増税、歳出削減、経済成長、低金利」の
4つである。
 周知の通り、日本はまず大増税の時代に入っている。昨年末に消費税の増税を見送って
ややほっとしている感もあるが、2017年には10%への増税を約束した上での
延期でもある。安倍首相は10%以上に消費税を上げる考えはないと公言しているが、
財務省においても、また国際機関からも、10%以上に増税しなければ日本の財政は
もたないと警告されている。歳出削減においては、以前は公共事業を中心に予算が
削られてきたが、今は国民全員に関わるもっとも不人気の社会保障の削減、
いわゆる年金や医療に大胆にメスを入れつつある。経済成長と低金利の手段は、
2013年4月より日本の中央銀行、日本銀行によって行われている質的・量的金融緩和
がそれである。日本の国債(国の借金証書)を一般の銀行より大量に買い取って代わりに
世の中に大量のお金を送り出している。お金の供給は基本景気対策になるし、
また国債の巨大な買い手の出現は金利が低くなるといった一石二鳥、
いやさらに結果円安にもなって一石三鳥になっている。

 このように解説すると、さすが日本のエリート官僚!うまくやっているなあ
と感心しつつも、しかし同時に何だかわだかまりのようなものを感じるのではないだろうか。
その原因は”負担”である。一般生活者にはほとんど負担ばかりのものなのだ。
まあ基本は借金返済のためにやっていることなので仕方ないとも言えるが、
片や円安による輸出企業の業績急回復とそれに伴う最高利益の更新、その結果の株高と
この世の春を謳歌する中で、もう一方は円安による物価高、増税、控除の廃止と
いいことずくめではないことは肌身で感じている通りである。しかしことはまだ始まった
ばかり。筆者は日本政府が密かに目指しているところ、日本の近未来像を次の様に予想する。
(以下はあくまでも素人の仮説です。SFだと思いながら読んでください)

大インフレの時代の到来

 以前、沖縄に行った時に、沖縄の酒・泡盛の勉強のためいろいろな酒造元を訪ねたのだが、
その時水先案内人をしてくれた現地の商売人がこんな話をしてくれた。
「いや〜、沖縄返還の時に為替レートを本土に合わせてくれた時には助かりましたよ。
とたん借金が軽くなった」と。ちょっと長く生きている人にはお馴染みだろうが、
むかし日本の円は1ドル=360円で固定されていた。固定相場制(ペッグ制ともいう)と
言われるものだ。その当時どうしたわけか沖縄では1ドル120円にペッグされていた。
アメリカの占領下であったので、何かしらその方が都合が良かったのだろう。
ところが1972年に沖縄が日本に返還されることとなり、お金=為替も本土=日本国と
統合されることになった。その時分、日本の円は1ドル300円前後の変動相場で、
通貨統合の結果、沖縄では一瞬で”超円安”となって急激なインフレが起こったのだった。
単純に言えば昨日120円で買えたものが、今日300円になった。
但し、それに合わせて給料も相応に上がった。ただそんな中で借金は契約書の額面のまま
止まり、返済はぐんと楽になった。先に紹介した沖縄の人の話の内幕はそんな事情が
あったのだ。これがインフレ効果の一端である。
 至極常識的に見てGDPの2倍以上、1000兆円を超える日本の借金はもはやまともな
手段では返せない。近代18世紀初頭、イギリスがGDPの300%という破滅的な借金で
苦しんでいたが、戦争の結果七つの海の海洋権益を得て、その後世界帝国となり、常識的な
借金返済のめどが付いた。そのイギリスでさえ借金の返済に100年を費やしている。
”デフレ退治”の触れ込みで始めた日本銀行の質的・量的金融緩和、もといお金の大量供給で
あるが、今や最終目的はインフレをコントロールして日本の借金を上の沖縄の例のように
軽くするのが遠謀と筆者は考える。それもできれば短期間で実現したいのが本音だろう。
なぜなら1000兆円の借金の1年間の利息は平均1%としても10兆円になり、
さらに新しい借金も重ねざるを得ない台所事情だからだ。もし私の推論が本当なら私たちには
どのような影響が出るだろうか?もっともはっきりしているのは、何かしらの対策を
とらない限り、現金と一般預金はインフレの分価値を損なうことになる。
と同時に借金は軽くなる。ただこのインフレ救国キャンペーン。どうも思うように
いっていないのも事実。次回は未知の領域に入った昨今の経済について紹介しよう。
(上記はあくまでも筆者の勝手な推論です。「意見には個人差があります」)


■ 執筆後記 ■

この「誰がために金はある」シリーズ、
まだ数回は続く予定ではあるが
(得意?な分野なのでまだ数回分はネタがあるということ)、
2015年6月初旬現在、その終わらせ方は決まっていない。
考え中である。

「お金」のことをこのエッセイで語るに、
はしたなさというか、いやらしさというか、
そんな感情が先立って、題材にするのに
如何なものかと当初考えたりもしたのだが、
同時に意外にこの分野のことについて、
真摯に向き合うのは、
経済関係か、金融関係のいわゆる専門分野内のみが主で、
もっと身近に親しみやすく、そしてわかりやすく
「お金」のことを話せないかと
挑戦と実験に執筆したのが
この「誰がために金はある」シリーズである。

私もお金はほしいが、と同時に
日常においてお金をいじるのを苦手というか、敬遠している。
商売だから普段はお金をいじるが、
それ以外では持ち歩くのをあまり良しとしないのである。
特にまとまったお金を持っていると、
なくさないか、盗まれないか、気が気でならない。
だから最近ではカード支払いが主である。
ポイントも貯まるし‥(*^_^*)

「お金はあっても邪魔にならない」と言うが、
身に余りすぎるお金は案外邪魔になるのかもしれない。
ただ一度そんな悩みを抱える身分にもなってみたいとも夢見ている。

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