旅の空色


2011年12月号




『家族と過ごす時間』

 3月の大震災以降、家族で過ごす時間が増えたと聞く。
またお出かけは「近場」で「安く」そして「日帰り」という3つのキーワードが流行だそうだ。
我が家もそんな時流に準じてお店の定休日と子供の休みが重なればできるだけ出かけるように
している。大震災や原発事故で被害に遭われた方々を思えば後ろめたさもあるが、
自粛のし過ぎは反って健全な経済に悪影響をもたらすとも考えている。
大震災以降このコラムも震災関係のものばかりであったので、本年最終のコラムは明るい話題に
したいと、我が家の楽しい日帰り旅行の体験を紹介して結びたいと考えた。

軽井沢散策

 軽井沢を訪れたのは10年ぶりであった。9月の月曜日祭日、店の定休日と子供の休日が
重なっての小さな旅であった。お出かけ前、東京の友人にこの計画を漏らすと一泊旅行かと
問われたが、我が家お得意の超早朝出発の日帰り強行軍であった。確かに軽井沢あたりへの
行程だと1泊旅行の感覚なのかもしれない。しかし今回の軽井沢行きの前に長野・上田市での
上田真田祭り観光を検討した際に大宮駅から上田まで長野新幹線で1時間という距離に改めて
驚いていた。その手前の軽井沢ならなおさらの近場ということになる。個人的には上田の武者行列も
捨て難かったが、みんなで楽しめるところと軽井沢に決めた(上田の真田祭りは例年4月に
行われるそうで、本年は震災の影響で秋になったのだった)。当日は朝6時前に自宅を車で出発、
軽井沢へはおよそ2時間ほどとスムーズで快適なドライブであった(ちょっと飛ばし過ぎか)。
 軽井沢などと語るとリッチな休日と解釈されるかもしれない。一応先の友人には別荘物件の
下見と吹いておいたが、貸し自転車による森林浴サイクリングが我が家族の主目的であった。
貸し自転車、いわゆるレンタサイクルひとつ見ても当地の事情はなかなか面白いものである。
JR軽井沢駅の目の前よりその手の業者の看板は賑わっているが、駅を数メートル単位で離れる度に
料金が百円単位で変わって行くのも面白かった。事情を知らないと駅降り口で借りてペダルを
数回漕ぐと失敗に気がつくことになる。ただ休日はこの手の利用者は多いはずなので
もしかしたら選択の余地は少ないのかもしれない。
 店で渡されたモデルコースの地図を手に駅より右手の古い別荘地に分け入って行く。
まずは万平ホテルを目指して別荘地の小道を縫うように走り、次に軽井沢銀座通りを抜けて
さらに北の旧三笠ホテルで折り返し地点となる。帰りは西側の新しい別荘地の中を抜けて
駅へと戻るおよそ2時間超のルートである。ちょうどドングリの実の熟す時期で風が立つと
空からドングリがあられのように落ちてきた。出発早々息子は道ばたのドングリ拾いに夢中になって
自転車はなかなか前に進めなくなる。やがて自転車かごは宝の山のように積まれたドングリで
いっぱいになって息子は満面の笑み。もともと石拾いが好きな息子で安上がりの遊びに顔が緩む。
 今回初めて知ったが軽井沢では景観を守るために高い塀は作れないそうだ。
そのため自転車でウロウロ巡ると別荘の住民の生活が垣間見えてなかなか楽しく勉強になるもの
であった。この地を終の棲家と定めてか、小さな屋敷と広い庭を仲良く手入れする老夫婦や、
広い芝生の庭の向こうに建つ大きな屋敷のリビングで三世代で語らう絵に描いたような家族の
光景もあれば、建てて何年もしていないのに売りに出されているホワイトハウスのような
白い家など、憧れの別荘地も様々な人間模様の想像をかき立ててくれるものだった。
 「ここの売り地は日当たりも良くていいね」「家の大きさはあれくらいが手間が
かからなくてベストかなあ」「少し通りから入った方が静かでいいよ」「車庫も3台分くらい
ほしいなあ」などなど。言うのはタダなので嫁と好き放題語り合ったサイクリングでもあった。
しかし帰りは大変だった。休日とあり軽井沢市街からの渋滞でさらに名物の関越道下り渋滞にも
巻き込まれて4時間超の時間を要した。「週末に軽井沢の別荘で過ごす時は金曜の夜走って来て
週明けの月曜明け方に帰った方がいいね」と車の中でもまだ吹いていた。

陶芸の公園

 いくつもの小山の間を大小の谷地がくねるその公園は葛飾の水元公園ほどの大きさだろうか。
山の勾配を利用した長い滑り台や数々の遊具に息子は飽きることなく大忙しで遊んでいた。
ひときわ広い芝生の広場では老いた男女がいくものコースを作ってゲートボールに興じている。
その隅を借りて今度は凧揚げに挑戦すると谷地を抜けるやさしい風を捕まえて凧はするすると
グングン上がった。ワンちゃんの散歩をする人も多く、その小さな1匹が見慣れぬ飛行物体に
吠えながら飼い主を引っ張って近づいてきた。連なる小山の赤く染まり始めた木々、
よく整備されたカーキ色の芝、そして真っ青な空に浮かぶ白い凧は正に絵に描いたような
美しさであった。これだけでも立派な公園であるが、この公園のテーマは『陶芸』である。
公園のそこかしこに陶器でできた大小の力作や生きたような動物が配されていて、それらを
探し歩くだけでも楽しく散策できる志向だった。そして一番の高台には大きな陶芸美術館と
陶芸に関する様々な施設の集まった村を抱える本格的なものである。『笠間芸術の森公園』、
茨城県内では益子と並んで陶器で有名な笠間市(かさまし)にある。
 益子市が陶芸で有名なことは知っていたが、笠間市のことを知ったのはNHKの朝8時台の番組
『あさイチ』でであった(木曜日が旅情報)。特に女優の川原亜矢子さんが担当した回で、
彼女が紹介する回は毎度素敵なところなので常に注目していた(ただ誠に残念なことに川原さんは
休養と私生活を充実させるために来春から休業するそうだ)。笠間市は三郷インターから
常磐道を下り、友部ICを北関東自動車道に左折して友部インターで降りてすぐの
車で1時間ちょいのとても便利で近いところにある。近年街を上げて陶器のPRに熱心で、
街のそこかしこで様々な作風に触れることができる。また11月には市内の笠間稲荷神社で
菊人形祭りが開催され、たくさんの露店も並んで盛況である。今年はNHKの大河ドラマ『江』が
テーマで有名な福島二本松の菊人形と比べても引けを取らない迫力のあるものであった。
 笠間に来たのならおすすめしたい見所をもうひとつ。笠間の市街地より国号50号線を西に
走ること数キロ。稲田交差点を右折してちょっと不安になる細い道をがまんしてしばらく進むと
右側に中野石材工業なる会社が見えてくる。その会社の門を営業に来たようの堂々とくぐり
20メートルほど進むと石でできた大きなオブジェがいくつも現れる。そこら辺りに車を停めて
オブジェの中を歩いて進むと先には人気番組「ナニコレ珍百景」相当の光景が…。
笠間の名物のもうひとつ、御影石の露天掘り採掘場の大穴である。底知れぬ地中の闇へと誘う
地獄の底が見たいなら身のすくむ思いで穴の縁に立つといい。
 帰路は一般道で越谷までは3時間程の道のりだった。途中下妻市の温泉施設『ビアスパーク
しもつま』で旅の汚れを落とす。息子と男同士裸で語らおうと思ったが、息子は水風呂とサウナを
行ったり来たり、風呂だかプールだかわからない様だった。


■ 執筆後記 ■

軽井沢サイクリングの風景。
軽井沢駅より万平ホテルへ向かう途中の
「ささやきの小径」と言われる付近でドングリ採集に夢中になる。

息子の手は明らかに私有地に入っている!これってもしかしてどんぐりドロボー?

軽井沢町内の雲場池近くの緑地公園。
たまたま一筋の木洩れ日が当たり、スポットライトを浴びた。

午後は私と息子は軽井沢おもち王国で遊び、
嫁はプリンスホテルのアウトレットモールへと分かれる。
そんな風に棲み分けるのも我が家のスタイルである。


茨城県の『笠間芸術の森公園』の遊具ゾーン。
子供向け(小学生までかな)の様々な遊具が充実している。
だだっ広い公園敷地の一角にあるので、
予め場所を確認して駐車場を選んだ方が良い。


広い広場もあり、凧揚げも気兼ねなくできる。
となりのさらに広い広場では、大勢の人数でグランドゴルフ大会が催されていた。

日本三大稲荷のひとつ、笠間稲荷神社の菊人形祭り。
この年はNHKの大河ドラマ『江(ごう)』がテーマであった。
福島県二本松の菊人形も有名で一度見たことがあるが、
引けを取らない盛大な展示だった。

御影石の露天掘り採掘場。底が見えない深さにぞっとする。
会社の敷地内だが、一般に開放されている。

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