旅の空色


2011年 9月号




『御岳山ハイキング』

東京都ポンポコの里

 きっかけは今年の6月。日本のワインの勉強にと山梨県勝沼町へ同業者の友人数人と出掛けた。
通常山梨へは松任谷由実の歌のように「右手に競馬場〜♪左手にはビール工場〜♪♪」と
いった具合に中央高速道を車で走るのが常であった。しかし今回はたくさんのワインを試飲する
都合で車の運転は厳禁なので、新宿よりみんなで電車で行くことになった
(埼玉・越谷に住む私はJR武蔵野線で西国分寺乗り換え、立川駅で途中乗車した)。
生まれて初めてJR中央線の特急電車で山梨に向かった私はまずその便利さにびっくりした。
特急は歌に有名な「あずさ」と「かいじ」があり、勝沼へは新宿より1時間20分、
立川からの乗車では1時間という近さだった(「あずさ」は甲府までほとんど停まらない
ものもある。また「かいじ」でも『勝沼ぶどう郷駅』か『塩山駅』いずれかの停車となる)。
しかし今回それ以上に驚いたのは沿線の景色であった。新宿を発してより特急は画一的な
眺めの住宅地を延々と走り抜けるが、高尾山を過ぎたあたりから連なるや山々や谷間を流れる渓谷、
川沿いの狭い平地に建つ昔ながらの民家と昔懐かしい山里の景色が広がるのだった。
中央道を車で走っている時も、また時たま見る地図でも、そこらは山間の地であることは感覚では
わかっていたが、まさかこんなに美しく豊かな自然の地が東京都下にあったのかと
ほろりと感動してしまった。多摩ニュータウンの建設前後、のどかな山里から都市への変容ぶりを
宮崎駿のアニメ『平成狸合戦ぽんぽこ』を通して知ってはいたが、都市化の流れでだいぶ西に
追いやられた狸たちの里は今そこに生きているのを確認した。そしていつか息子を連れて
その自然の中で遊んでみたいと願うのであった。

天空の巡礼地。そしてわんちゃん天国。

 先の9月の連休の月曜日(当店の定休日)、その願いを叶える機会が巡ってきた。
しかし私は彼の地のことは全くわからないので登山を趣味とする友人に相談すると
越谷からなら奥多摩の方が便利だと紹介された。特に御岳山は神社参拝の後、初級者には適度な
おすすめのハイキングコースもあるという。ここのところ台風の影響で天気は不安定だったが、
その日はちょうど晴れとの予報だったので天佑も奥多摩行きを勧めていた。
 越谷からは草加インターより外環道に乗り、上越道を北上して鶴ヶ島で圏央道に左折して
青梅インターで降りれば御岳山までは残り十数kmである。出掛けるときはやる気満々、
日の出とともに出発する気概の我が家は高速代節約のため上越道をほどなく所沢で降りて
一般道を所沢の航空公園横を通り入間市を経由して青梅へと抜けた。道さえ空いていれば
このルートでも御岳山へは1時間半程の行程であった(ちなみに電車なら先に紹介した立川駅から
青梅線が便利である)。両側に山の迫った多摩川の渓谷沿いにくねる奥多摩街道を走り
青梅線御嶽駅前を左折して橋を渡り、2km弱山を登れば御岳山への入り口の
ケーブルカー滝本駅に到着となる。これまた早朝一番の到着だったので駅横の有料駐車場に
楽々入庫する(1日千円。休日とあり帰り際には空車待ちの車が列を作って待っていた)。
最大傾斜25度(470パーミルの標識があった)、日本でも有数の急勾配を6分程
電車で登ったところが天空の巡礼地・武蔵御嶽神社を奉る御岳山の頂である。
 ケーブルカーで登れば上は平らだよと友人からは聞いていた。
頂上の御岳駅からゆるりと山肌の道を回り込むと先の峰沿いに大小幾つもの屋根が見えてくる。
参拝者を泊める宿坊と門前町の商店が猫の額ほどの頂に小さな集落を作っているのだった。
集落までは確かに楽な平らだが、鳥居までもう少しというところからかなりきつい坂の連続になる。
ケーブルカーで同乗してきた他の家族連れの小さな子供たちも最初の元気はどこへやら、
多くが坂の途中でぐずっていた。同じく我が息子・れんくんもだましだまし尻を押す。
やっと鳥居まで到着すると今度は雲の上まで続いていそうな細かい段差の石段が待っていた。
神社の社は正に標高929mの山の頂上にあるのだった。
 今回のお参りで驚いたのはわんちゃん連れが多いことだった。ケーブルカーも道々のお店も
そして神社もわんちゃんに熱烈歓迎、とても友好的なのだ。そのわけは神社の成り立ちにあった。
神社発祥の神話に犬の親戚たる狼が登場し、「お犬様」として奉られているのだ。
実際に社を守るのは狛犬ならぬ狛狼の構えである。ここは日本でも数少ないわんちゃんたちの
参拝聖地でもあり、わんちゃん様々のお犬様の国でもあったのだった。
 参拝後、山のおいしい空気に加えてさわやかな涼もとれるとのことでロックガーデンという
うっそうとした岩場が続く渓流を目指してハイキングを楽しんだ。初級者レベルとはいえ2時間超、
かなり足応えのあるコースで私自身もきつかった。しかし息子も途中ごねることなくよく歩き切り
たくましい姿を見せてくれてとてもうれしかった。

奥多摩のさらに奥

 奥多摩は奥多摩ダム湖の数キロ手前までJR青梅線が延びているので本当に便の良い所である。
終点・奥多摩駅から先も路線バスが繋いでくれてさらに山の深部に分け入ることができる。
私たち家族はより深い自然の中で渓流釣りを楽しみたいと奥多摩駅より右折して細い山道に入り、
日原(にっぱら)を目指した。30分ほど走った道の行き止まりには日本8大鍾乳洞のひとつ
「日原鍾乳洞」があり、そのすぐ側に有料の渓流釣り場があるのだ。ここは釣り堀と違って
自然の渓流でダイナミックに釣りを楽しむことができる。入漁料金は釣り人ひとり3000円と
割高であるが、釣った分だけ持って帰れるので腕に自信がある人にはお得だ
(釣り堀では釣り上げた数だけ入場料とは別に魚代を払う場合がある)。お金を払うと
おじさんが川のポイントまで案内してくれて養殖のヤマメやニジマスをその場に放流してくれる。
普通の渓流に放して魚はどっかに行っちゃうのではないかとも思ったが、流れが急なので
あまり動き回らないらしい。釣りの終わりの日暮れまでそんなに時間がないのが気になったらしく
おじさんは予め持ち帰り用の魚を数匹あげる言ってくれた。しかし我が家は魚を食べたり
持って帰る気は全くなかったので丁寧に断ると、それならと竿をもう1本サービスしてくれた。
当初はれんくんにちょこっと竿をいじらせれば気が済むと始めた釣りが、おじさんのおかげで
親子釣り対決の様相となった。しかし…釣り堀と違って実際の渓流相手ではそう易々と魚は
上がらないものである。しばらくすると予想通りれんくんは飽き始めた。まーそんなに簡単に
獲物にありつけないのもよい経験である。2本の竿で代わる代わる2時間ほどがんばったが
やっと2匹という結果であった。もちろん最後は遊んでくれたお礼を言ってれんくんの手で
魚は川に放してあげた。
 東京にもこんなによいところがあると1日満喫した奥多摩であった。


■ 執筆後記 ■


御岳(みたけ)登山鉄道、ケーブルカーの先頭で写す。
写真にペットエリアとあるように、狼信仰の御山であり、
狼の親戚たる犬にもやさしい配慮が所々見られる。
ケーブルカーは麓の滝本駅(標高407m)より
山頂近くの御岳山駅(標高831m)を6分程度で行き来している。

ケーブルカーの山頂駅、御岳山駅近くで写す。
天気が良ければ遠くまで山々の頂を一望できる。

御岳山の標高は929mでケーブルカーを降りて
山頂近くの神社本殿まで100mほどしか高低差はないが、
ここから始まる約300段の石段は結構足にくる。

御岳山ハイキングコースのロックガーデンと言われるコース。
神社奥にいくつかのコースがあり、山の豊かな自然の中で
気軽に山歩きを楽しめるのもこの御山の魅力である。


御山からの帰り際、ケーブルカーより麓の滝本駅を写す。
駅の周りに駐車場が整備されているが、駐車台数が限られているため、
休日などは早めに登った方が得策である。
右側の木々の間に垣間見えるが、この日も降りた時には大渋滞となっていた。

奥多摩のさらに奥、日原(にっぱら)の渓流釣り場。
本格的な雰囲気で渓流釣りができる。ただ素人には釣れにくいかも。
ここも休日は隣接する「日原鍾乳洞」を目指す車で
1本道が大渋滞になるので要注意である。

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