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『河童探索プロジェクト』 〜計画編〜
岩泉町役場経済観光交流課 様 宛て
「初めまして。本年7月に田野畑に泊まり、その帰り龍泉洞を観光する予定の者です。
メール致しましたのは、岩泉町では昔、河童の目撃談が多数あったと聞き及びました。
そこで出来ましたらそんな目撃スポットを2〜3紹介頂ければと思いました。
舟木沢の滝なる場所もそのひとつと聞き、地図で探しましたが、古い地名のためか
見つけることはできませんでした。まあ、河童の出そうな、それっぽい場所を
お教え頂ければ、小学生の息子にちょっとした冒険と畏敬の念を教えられると思い、
こんなメールをさせて頂いた次第です。危険のない、利便のよい場所ならなお結構です。
どうぞよろしくお願い致します。 埼玉より」
春、4月。私が岩手県下閉伊郡岩泉町(しもへいぐん、いわいずみまち)役場観光課に
宛てたメールである。メール文に聞き慣れない呼称が現れるので、順に紹介すると、
田野畑(たのはた)とは岩手県沿岸の小さな漁村で、岩手沿岸最北の市・久慈市(くじ)
より30kmほど南に下ったところにある。最近話題のNHK朝ドラ『あまちゃん』の
舞台は久慈市を中心にこの田野畑も含む一帯である。ミーハーな私らしく
評判の朝ドラの影響もあるが、田野畑の『ホテル 羅賀荘』なる旅館は東日本大震災前より
一度ぜひ訪れたいと思っていた宿で、昨年末より営業を再開できたと聞き及び、
本年夏の息子との二人旅の旅先と決めたのだった。この旅館は目の前の漁港で上がる海の幸と
大浴場から望む太平洋の絶景が売りなのだが、その立地ゆえに大津波で大打撃を受けたそうで、
その営業再開は奇跡の再開と言われているそうだ。宿泊翌朝は漁港より出るサッパ船
(小型の磯舟。昔は手こぎだった)で断崖絶壁の名勝・北山崎を海から探検した後に、
日本三大鍾乳洞のひとつ岩泉町の『龍泉洞(りゅうせんどう)』に潜る予定である。
実はこの鍾乳洞は随分と昔に一度、嫁と訪れたことがある。「日本三大」の名は伊達ではなく
とりわけ最も奥にある地底湖は正に龍の住処のようで、どこまでも透明な水が
地底湖の底部まで見通せる様は神秘的であり、しかし実は底の底は岩がくねって見えず、
正にそこに龍が隠れているような不思議な光景である。岩泉町の近くを通るなら、
ここに立ち寄らねば損というもので、海岸線の道より15kmほど内陸にわざわざ寄り道し、
息子にも見せたいと思った龍泉洞なのである。同時にママびいきな息子にパパとママが
昔日ここでデートしたなどと語り、悔しがる顔も見たいといういじわるな趣向もある。
河童(かっぱ)といえば同じ岩手県内の遠野町(とおの)のカッパ淵が有名であるが、
NHKの「新日本風土記〜妖怪〜」なる番組で、この岩泉町の年寄りが幼少の頃に
河で河童と遊んだことがあるという真に迫った証言を語り、私もできれば出会ってみたいと
思ったのであった。役場に宛てたメール文では、いかにも良いお父さんが息子に夢を
持たせるためなる美談として語られているが、本当は実はお父さん=私自身が強い関心を
抱いているのであって、息子の絡めはいい大人がアホなことをと思われないための
煙幕であった。私はこの河童探索計画を息子に話し「河童は本当にいると思うか?」と
尋ねたところ、即答で「いないよ」と一刀両断されてしまった。
どうも可愛げのない超現実主義は嫁譲りらしい。
そんないまいち乗り気でない息子だが、私には秘策があった。
息子にこう提案したのだ。「お前は河童はいないと言い、パパは河童はいるかもと言う。
そこから始めて夏休みの自由研究の課題にしたらどうだ?河童のことを予めあれこれ調べて、
実際に噂の河に探しに行って、見つかればもちろん、もし見つからなくても
立派な自由研究になるよ」と。おもしろい課題だし、いつも自由研究の題材には嫁も
ひっくるめて悩むので、息子はすぐに乗り気になった。さらに私は息子に自由研究の大切な
オチになる知恵も授けた。「おまえは工作が、特にダンボール工作が上手だから、
河童の頭の皿と背に背負う甲羅も作っておきなさい。ママには緑色の上下のタイツ服を
用意しておくように言っておくよ。これでもし河童が見つからなくても、その場所で
お前がそれらを身に付けて写真に収めれば、とても立派な想像図になるし、
しかも大ウケ間違いなし。これ以上の自由研究はないよ」と。息子はまるでもやしの胴に
もやしの四肢が生えたようなひょろっとした体なので、緑のタイツに皿と甲羅を
身に付ければ河童そのものに見間違うような立派な仮装となるだろう。
きっと見物である。想像するだけで笑ってしまう。ひどい父でもある。
ただ、このオチにはさすがに息子も怪訝な顔を見せたので、父が手本を見せてやると
私も自分用の仮装を作ることを約束した。新種の丸い河童も発見!となる予定。
今回の話、読者諸君には何とも馬鹿らしい戯れ話と受け取られることだろう。
河童などと、しかも仮装までと。実はこのアイデアは他からの借り物である。
河童の伝説は日本全国津々浦々にあるそうで、そんな伝説地のひとつ、熊本県の片田舎、
人吉市(ひとよし)では週末になると町の中心を流れる球磨川(くまがわ)の川岸に
河童が多数出没し、話題になっているという。伝説の話ではなく、”週末”と記したように
現在の話である。そして地元住民の方が河童に出会うと皆きまって「ご苦労様です」と
挨拶する。熊本〜人吉の間は週末SL機関車が走っていて、運が良ければ人吉の手前の駅で
人間が河童に変身する光景も見られるともいう。河童へ変装中、つまり着替え中の
ちょっと情けない姿が。これは人吉市の企画で、河童の変装をして人吉に来てください
というイベントらしい。何か報酬とか、特典とか、変装するといいことがあるかどうかは
知らないが、それぞれの人が思い思いの変装で週末に人吉に集まり、河原をうろうろする
といった具合らしいのだ。まあ週末なので観光客に騒がれたり、一緒に写真を撮ったり
するのが、変装側としては快感なのかもしれない。実は私はこの人吉市を一度訪れた
ことがある。ここは米焼酎の有名産地であり、その研修で訪れたのだ。ただこの人吉市、
こう言っては何だが、米焼酎と人吉城以外、これと言った名物がなく、へんぴな田舎町
であり、もう二度と来ることはないだろうと内心思った。そんな土地だからこそ
この河童企画が生まれたのであろうし、私も企画に大いに感服したのだった。
変装や仮装はノーマルな日常の常識や自らの固定観念から一時こころを開放する
効果があると聞いたことがある(とどのつまりはアブノーマル)。私も息子も初めての
試みだが、そんな境地に至れるのだろうか。しかし少なくともいかにも河童が
出そうな景色の中で、いい写真を撮ることを目標にがんばってみたいと思う。
■ 執筆後記 ■
この「河童探索プロジェクト」は翌月7月の海の日に実行され、
実際に息子と旅行に行ってきた。
宮城のくりこま高原駅で新幹線を降りた私たち親子は
そこから友人Kとレンタカーに乗り、東北自動車道を
青森県八戸まで北上。
まずウミネコ繁殖地として有名な蕪島(かぶらじま)を観光した。
【ウミネコと少年(息子・錬)。まるでヒッチコックの映画「鳥」といった世界。
階段を登った神社の境内には飛べないヒナがうようよしている。
鳥が苦手な方には不向き。また糞がかからないよう傘があった方がよい。
大抵の車は駐車中に糞爆弾が命中している。我々は傘をささなかったが
人も車も幸運にも無傷だった】
次にそこから少し南下したところにある
景勝地・種差海岸を訪問し、しばし磯と戯れた。
【私(筆者)と息子・錬。
作家・司馬遼太郎は宇宙人が来たら地球の美しさを教えるために
まずこの種差海岸を案内してやろうと思うと書いている。
広い芝地と奇岩の海岸。岩場では貝殻拾いや磯遊びができる】
そして国道45号線を延々と1時間半ほど南下し、
朝ドラ『あまちゃん』で有名になった久慈駅前を散策。
また同市内の「琥珀博物館」を見学した。
【朝ドラ『あまちゃん』で有名になった久慈駅前のビル。
実際に見るとかなり老朽化していて、結局この後に
取り壊される運びとなったそうだ。
久慈では『あまちゃん』の舞台となった駅より5kmほど離れた
小袖海岸が一番の旬な観光地であったが、あまりの観光客の多さに
車両規制となり、行き帰り市バスを利用しなければならず
時間がかかるため、今回は訪問を断念したのだった】
久慈よりさらに国道45号線を南下することおよそ10km。
野田村の砂浜を過ぎて振り返ると半島にかかる「やませ」の
自然現象をはっきりと確認することができる。
「やませ」とは東北地方太平洋岸で夏場によく起きる現象で、
海から運ばれてきた温かい空気と地上の冷たい空気がぶつかり、
雲のような”もや”を発生させることを言う。
先に紹介した種差海岸においても時折”もや”がかかったが、
それも「やませ」である。
しかしこんなにくっきりと確認できるのはこの場所だろう。
【海岸線にある海に突き出たような陸地に白く乗っかっている煙のような雲が「やませ」。
煙のようにみえて、陸地に引っ付いているのは、陸の岬から発生して
内陸に流れていることをはっきりと示している。
温かい湿気が海から陸沿いに上がったところで冷やされて”もや”に生まれ変わっている。
ちなみに息子・錬はただカッコ付けているだけで、ポーズに意味はない。】
この「やませ」スポットから1kmほど南下したところにある
北リアス線の無人駅、堀内駅(ほりない)を訪問。
ドラマ『あまちゃん』ではあまちゃんの最寄り駅「袖ケ浜駅」として登場した駅である。
【あまちゃんの親友、ゆいちゃんが「アイドルになりた〜い!」と叫んだ駅なので
一応その格好をしてみたアホな私(筆者)。この駅からも先に紹介した
「やませ」の半島が見える絶景である。
すぐ右上が国道45号線なのだが、この駅への降りる側道はわかりにくく
おそらく一度は通り過ぎてしまうだろう。】
【「堀内駅」の線路下にある連絡用トンネル。
奥の突き当たりを右にホームへの階段が伸びている。
ここらか叫ぶと奥の壁に当たり、木霊効果で声が響いて面白かった。
息子と今好きな女性の名を呼び合った。その名は秘密だ。】
堀内駅からさらに南下すること20分。
田野畑村役場の少し先の信号を左折し、
山道を走り、最後に急な崖道を降りると
小さな港の側に建つ今宵の宿『ホテル 羅賀荘(らがそう)』に到着。
本日はここで旅装を解いた。
海から見た「ホテル 羅賀荘」の眺め。霧のようなものは「やませ」。
【この旅館の紹介は「これまで泊まった宿」のコーナーに譲るとして
ここでの忘れ難い思い出はふたつ。
ひとつは息子・錬とホテルのスナックでカラオケをしたこと。
夕食後、食堂のすぐ前にあるスナック「銀河鉄道の夜」に入ったのだが、
開店一番に入ったので広い店内は貸し切り状態。
友人Kと我々親子の3人で歌いまくった。
とりわけ息子が歌った『いきものがかりの「ありがとう」』は
ママへの感謝の気持ちが溢れていて感動してしまった。
3人であまりにも曲の予約を入れていたので
後から来た地元老人のグループは30分マイクを握れなかった。
あとひとつは今回の旅で最大のイベントであり、最高の思い出となった
『サッパ船アドベンチャーズ』である。
ホテルの前から出る小さな磯舟(これをサッパ船という)で
雄大なリアス式海岸の断崖絶壁を海から巡るツアーなのだ。
200メートルある絶壁を真下から眺めたり、
エメラルド色の海水を湛える洞窟に入ったり、
狭い岩穴をすり抜けたりと
スリルと見どころ満載。
ここまで来てこの体験をしない手はない。
ホテルの部屋からサッパ船を望む(写真中央。船尾に青旗を立てた2艘)。
あの小さな船に10人ほど乗せて出る。
「サッパ船アドベンチャーズ」の行程はもちろんカメラに収めたのがだ、
雄大すぎて普通のデジカメではとても収まりきれないのが偽らざる感想。
どうかご自分の目で景色を見に行ってほしい。
(
サッパ船アドベンチャーズのHP
。外部リンク)
2日目は上記の「サッパ船アドベンチャーズ」に参加した後、
車で1時間ほど走り、岩泉町の鍾乳洞「龍泉洞(りゅうせんどう)」を訪問
(龍泉洞は日本三大鍾乳洞のひとつ)。
その後、岩泉町での河童探索となった。
河童探索については翌月のエッセイで紹介しています。
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